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「ソラニン」


音楽にかけた彼を追って

「ソラニン」
 青春のホロ苦さがスパイスとして効いており、分かる、分ると、うなずいてしまう。そんな身近さが感じられる作品だ。人それぞれ青春の夢と現実があり、才能の有無に思い悩む姿が身につまされる。

 大学時代から続く軽音楽グループの五人が主人公。その中の井上芽衣子(宮崎あおい)と種田成男(高良健吾)は同居中。芽衣子は会社員、種田はフリーターでロックミュージシャンを目指している。将来のあても自信もなく、袋小路の毎日を送っている。芽衣子の離職と二人のボート上でのけんかが、芽衣子と種田の関係に変化をもたらす。彼らは日常の不安をぶつけ合うが、それがきっかけで不安やこだわりが消え、種田はロックの道をまいしんする。

 ようやく深い、曖昧模糊とした青春の闇から出た途端、種田は交通事故で亡くなる。愛する種田を失った芽衣子は、自分を奮い立たせるように遺品のギターで遺作「ソラニン」を歌う。彼女は仲間に支えられて猛練習し、ライブに臨む。宮崎が芽衣子のひた向きさをうまく出し、それが作品に融けこんでいる。若い女性の自立を願う作り手の意思も伝わってくる。
登場人物のテンションは緩く、だらだらと続くお友達のような関係を保っている。今の若い世代の姿をストレートに映し出している。

 最後のライブのシーンで感動は頂点に達する。青春の戸惑いを上手くすくい取った佳作といえるだろう。ちなみに「ソラニン」とは、ジャガイモの芽などに含まれる毒の一種で、その植物の成長に必要不可欠な成分という。三木孝浩監督。
二時間六分。 





東京新聞
2010年4月2日号掲載

中川洋吉・映画評論家