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「フランス「AFCAE」の現状」
充実した助成制度で活動

 わが国では、古い名画を上映する、いわゆる名画座が現在、殆んど存在しない。古い作品はビデオ鑑賞するのが一般的となり、名画座に対するニーズが余り求められないことが大きな原因と考えられる。一方、映画インフラの整備が進んだフランスでは、多くの名画座が存在し、名画座連合組織が稼動している。この実情のヒアリングを、今春、パリのAFCAE(アフカエ)の本部で行い、事務局長のミシュリーヌ・ガルデスから、フランス、アート系館の現状について詳しく説明を受けた。

アート系館の現状 その連合組織

ミシュリーヌ・ガルデス事務局長
 アート系館は一般的にいえば、大手興行チェーン、UGC,ユーロパラス(ゴーモン、パテの連合体−両社社長がセドゥウ兄弟)、そのほかにボルドー地域中心のCGR,パリのみで興行するMK2などがある。これら大手に属さぬ、独立興行主たちの連合組織がAFCAE(Association Francaise des Cinemas d'Art et d'Essai)である。2008年のCNCの統計によれば、フランス全国のスクリーン数は5418(日本は3359スクリーン〔08〕)、同組織のスクリーン数は2220を数える。世界中で興行収入記録を塗りかえている「アバター」は大チェーンで大々的に公開中であるが、このような大型作品以外に名画上映を中心とする多数のアート系館の存在も無視できない。
この10年間のAFCAEの統計によれば、98年には1065館だったのが現在は2220スクリーンと大きく数を伸ばしている。(98年当時はAFCAEではシネコン数が少なく、館数単位)


AFCAEの歴史

AFCAEの刊行物

 AFCAEの設立は1955年までさかのぼる。映画館主と映画ジャーナリスト、そして1901年に設立された旧アート系館連合組織が一体となり立ち上げられ、新AFCAEが誕生した。当初の加盟館は僅か5館であり、その中心人物が、現存する、カルチエ・ラタン、ルクサンブール公園近くの「ル・ストゥディオ・ウルスリヌ」館支配人アルマン・タリエであった。
発足4年後には、作家で時の文化大臣アンドレ・マルローにより、文化省認定団体に指定され、公の資格を得た。統計資料が古くなるが、2002年のAFCAEのスクリーン数は1800であり、現在の数字と大差はない。それだけ、名画の需要が大きいといえる。
加盟員は852名、1048館、そして主要な団体が19ある。それは、地域、または県単位の独立興行主連合である。


設立趣旨 良質な作品を発掘して上映

 AFCAEはより多くの人に良い映画を見せることを大前提としている。従って、商業主義とは一線を画し、むしろそれからこぼれた作品の発掘に力を入れている。同組織の主要活動に良質な映画の推薦制度があり、その基準がこの組織の性格を現している。推薦制度の基本方針は次のようになる。

1) 興行的に不振でも内容の優れた作品
2) 実験性が旺盛な作品
3) フランスで見る機会の少ない作品
4) クラシックな名作
5) 映画芸術上、必要とされる短篇

さらに加えて、

6) 批評家や観客の反応の良かった最近の作品
7) アマチュア作品で他に類を見ない内容をもつ作品

同組織にとりCNC(国立映画センター)との共同作業が、活動の大きな柱となっている。そのために各種の委員会が設けられている。

それらは

1) 映画館改装及び前渡し金のための選択助成委員会
2) 配給に対する選択助成委員会
3) カテゴリー分類決定委員会
4) 学校教育向け作品選定委員会
5) 子供向け作品配給のための選択助成委員会
6) アート系館全般に渉る中央、及び地方委員会

以上のように、選択助成委員会とはCNCの映画部門の選択助成部門の一つ。他に、アート系館改装は、独立館主の多いアート系では大事な助成である。大手興行資本に比べ、資金力で劣るアート系館の施設は劣悪とまではいわぬが、古めかしいケースがしばしば見受けられる。また、学校教育向け、子供向けの映画事業も重要な活動である。
これらのCNCとの合同協議で決定された事項を同組織が実施する。この委員会システムを見てわかる通り、アート系作品上映に対するCNCの肌目細かな施策は、文化的意義の高い作品を保護するCNCの姿勢と合致する。


カテゴリー分類

 アート系館で上映される作品を推薦するのが、100人の関係者による推薦委員会である。委員はCNCの委託を受けた興行、配給、製作、監督、映画祭ディレクター、関係官庁、藝術分野一般、若者代表から構成される。会合は月2回、総ての封切り、再上映作品リストから投票が行われる。
これらの推薦作品を上映するAFCAE認定館(以下認定館)制度がある。この認定館は大別して2グループからなる。このグループ分けは、人口数に拠っている。その一単位は、人口の多い日本と比べ(フランスの人口6200万人)非常に小さいところに特徴がある。
フランスも日本同様、無映画館都市が多く、それを補う制度がある。先ず、具体的な地理的カテゴリー分けは先のようになる。

【第一グループ】
[a] 周辺都市を含め20万人以上、中心都市人口が10万人以上
[b-1] 周辺都市を含め20万人以下10万人以上、中心都市人口が5万人以下
[b-2] 周辺都市が20万人以上、中心都市が10万人以下5万人以上

 以上のように、地域的分別は相当に細かい。言いかえれば、それだけ地方小都市への目配りが効いていることとなる。

【第二グループ】

[c]  人口10万人以上の市町村
[d]: 人口2万人〜10万人以下の市町村
[e] 人口2万人以下の市町村

 eのように、人口2万人の地方の市町村にAFCAEの拠点を設ける映画文化政策の浸透振りには驚かされる。



助成の計算方式

 第一グループのa,bはAFCAE推薦作品を総上映回数で割ったもののうち、70%以上であればカテゴリーa,55%までであればカテゴリーbと認定される。そしてCNCの助成額はカテゴリーaは70%であれば1000ユーロ、そして上限は130%の16200ユーロとなる。この金額は映画館単位で与えられ、スクリーン単位ではない。
 第二グループのc,d,eは、パーセンテージではなくAFCAE推薦作品数に対する係数により決定される。規模的に小さい第二グループに対する優遇措置である。



観客動向

 AFCAE作品の上映館(アート系館)は約1000館強ある。名画座は一見、映画好きの集まる大都市現象と考えがちだが、実情は違い、フランス全土に平均的に分布している。大都市パリは約20%弱と意外に少ない。この現象は、地方の無映画館都市への行政の映画文化振興が好調に稼動しているものと考えられる。ここでは詳しく触れぬが、無映画館市町村の公共ホールでの映画上映のための借り上げ、そしてCNCがプリント費を負担、地域の配給会社への無償貸与制度がある。このような文化政策をAFCAEが支えている。
 この観客動向だが、男女比はほぼ五分五分である。年齢層は15歳以上、青年、老年まで動員し、特にシルバー層が突出している。一般的に映画観客層は若者、地方、そして非定期の観客(年1,2回映画館に足を運ぶ層)であるが、同組織は、その正反対の現象を示している。週1回見る層が圧倒的に多いのがアート系館の大きな特徴である。



おわりに

 AFCAEの存在は、映画大国、フランスを体現している。全スクリーン数の41%が名画座で占められている。CNCの映画統計は完備し、AFCAEはCNCの助成金により、映画興行界で不動の地位を獲得し、それも全国規模で展開されている。CNCの助成金額は年間1159万ユーロ(邦貨約15億6200万円)(ユーロ=130円換算)である。この組織のような制度、現在の日本には全くない。文化遺産保護の観点からも、日本でAFCAEのような組織の立ち上げを考えなければいけない。



(文中敬称略)
《了》
映像新聞 2010年4月5日号 掲載
 

中川洋吉・映画評論家