このサイトからダウンロードできる
PDFデータの閲覧のために必用なAcrobatReaderは以下のリンクより
無償でダウンロードできます。



このサイトからダウンロードできる
PDFデータの閲覧のために必用なAcrobatReaderは以下のリンクより
無償でダウンロードできます。



統計で見る世界映画産業の情勢
フランスは入場者2億人超える
異常に高い日本の平均入場料金

 毎年カンヌ映画祭が開催される5月に、映画振興組織CNC(国立映画センター)から、フランス映画統計が、同映画祭見本市からも世界映画統計が発表される。この2つの統計から、この1年のフランスを中心とした世界映画界の動きが見てとれる。あわせて、これらを日本の統計資料と比較し、日本映画の問題点に触れてみる。

 表は、日本とフランス、隣国で、非常に映画インフラが整備されている韓国、更に、世界一の映画産業を有するアメリカ、とその対抗軸としてのEU、その他のEU主要国、更にアジアの中国、インドを加えた統計で、現在の映画がおかれた位置を俯瞰する。

世界映画人口

 日本の映画産業界の大きな目標の一つは、年間入場者、2億人への到達である。日本映画は1958年(昭33)に11億2745万の入場者を記録し、その後、下降線を下り、最盛期の数字には遥かに及ばない。一時は1億1957万人まで落ち込み、その後、シネコンの普及で、やっと1億6千万人台にまで復調した。

 フランスは、今年2億人を越えた。この大台を超えたのは1968年と1982年以来である。2009年のフランス映画界、特に牽引役的な作品はなく、同国映画の国内市場占有率は36.8%、アメリカ映画などの作品は63.2%と、外国作品が優勢である。この増加の説明は難しい。しかし、一つ考えられるのは失業者割引などの割引制度の好稼動、深刻な経済危機での、国民全般の映画回帰現象が考えられる。映画は大して高くなく2時間たっぷりと遊ばせてくれる数少ない娯楽であることが強み。
 
  因みに、映画王国アメリカの映画人口は14億2千万人と、EU全体9億8100万人を大きく引き離している。アメリカ映画は本国の興行で約3分の1、そして海外でその残りを稼ぐとされ、映像コンテンツがもてはやされる時代でも、確固たる強みを維持している。


興行収入

 この部門のトップは、やはりアメリカで1兆600億円と桁外れな額を記録している。日本は約2千億円、フランス1356億円、韓国は790億円で、アメリカの映画産業の巨大さが良くわかる。人口の多い中国、インドはそれぞれ約688億円、1659億1240万円とされている。しかし、これを以って全統計とするには異議がある。国土の広い中国で、全体的統計が揃うことは考え難く、インドは21(27の説もある)の公用語があり、それぞれの言語で作品が製作され、これらが正確な数字とは思えない。両国とも、人口の割にスクリーン数が少ない。多くの屋外映画会が催されていると考えられるが、そこまで把握していたか定かでない。

年間入場回数

 映画好きとされるフランスでは、年間で3.11回、韓国も多く、3.22回、アメリカに至っては4.3回を数える。日本の年間1.3回が際立って低い。この辺りにも、観客が一向に増えない日本の問題点がありそうだ。  ヨーロッパ諸国は意外と回数が低く、フランスを除けば英国の2.83回、スペインの2.38回が多く、ドイツは1.73回、イタリアは1.86回である。中国の0.16回、インドの2.41回も、統計の精度に首を傾げたくなる

平均入場料

 観客にとり重要なのは、映画入場料金の安さである。安いのは韓国で508円と、安さで突出している。韓国の観客は若年層が多く、それに合わせていると思われる。フランスは675円、アメリカは750円、インドの57円は先述の統計精度と物価の安さ、所得の低さから来ているのであろう。  世界的に見て、大体600〜800円が映画入場料の相場ではなかろうか。

国産映画の市場

 退潮気味といわれるハリウッド映画だが、世界的には相変わらず強い影響力を保持している。フランスは国産映画占有率が36.8%とEU諸国では健闘している。しかし、他のドイツ、イタリア、スペイン、英国は20%〜10%台である。  面白いのはアメリカの91.8%であり、アメリカ人は殆んど自国作品しか見ないことがわかる。しかも、殆どが吹替え版なのだ。日本は、56.9%と韓国と並び健闘しているが、1993年度から30%台に落ち、復調し始めたのは2006年以降である

日本のケース

 日本映画界の傾向は世界的に見て、かなり違う。その一番の問題は、平均入場料金の異常な高さにある。1217円と、ひどく高額であり、一般料金は1800円が普通であり、安い筈の学生料金は1500円とべラボーに高い。  映画入場者数が1億6千万人台を超えない一番大きな理由は、この高額料金にあると考えられる。平均入場料金が1000円を超したのは1979年からで、それ以来、値上げは続き、一度も下がっていない。極言するなら、入場者数の頭打ちを高額の平均入場料金で補っている。シルバー、レディス割引などはあるが、全体を下げる方向へは進んでいない。興行収入は2000億円あり、世界的に見てもアメリカに次ぐ稼ぎなのだ。この興行収入が続くのであれば、入場料金値下げの必要性は無いと興行会社は考えているのであろうか。もっと安く、もっと多くの人に映画を見せる経営政策は眼中に無いのか。値下げが必ずしも減収に結びつくことはなく、時として観客増のシュミレーションをやったことがあるのか

図表 「世界映画情勢 2009」 
国家人口(万人) 映画入場者(万人) 興行収入(万) 年間入場回数 平均入場料 スクリーン数 製作本数 国産映画
市場占有%
フランス 6470 2億90 1232.91Mユーロ
1356.20億円
3.11 6.14ユーロ
675円
904
477 (3D)
230 36.8%
日本 1億2760 1億6930 2060億3500万円 1.3 1216円 413
325 (3D)
762
(*)
56.9%
韓国 4870 1億5680 10兆9280億ウォン
790億円
3.22 4970ウォン
508円
571
129
(3D)
138 48.8%
アメリカ 3億740 14億2000 106億$
1兆600億円
4.3 7.50$
750円
16450
3548 (3D)
677 91.8%
 EU(27カ国) 5億130 9億8010 60億2700ユーロ
6629億7000
1.96 6.39ユーロ
703円
4134
2723 (3D)
1168 67.1%
(アメリカ映画)
ドイツ 8190 1億4630 9億7610ユーロ
1073億7100万円
1.79 6.67ユーロ
734円
4734 220
(*)
27.4%
イタリー 5980 1億1120 6億7610ユーロ
743億7100万円
1.86 6.08ユーロ
669円
3208 133 24.4%
スペイン 4610 1億950 6億6780
734億5800万円
2.38 6.1ユーロ
671円
4083 186 16%
英国 6120
1億7350
9億4400 £
1227億2000万円
2.83 5.44£
707円
3696 116 16.5%
ロシア 1億4140
1億3850
234億600 ルーブル
727億2600万円
0.98 169ルーブル
523円
2102 78 23.9%
オーストラリア 2160 9070 7億3500ユーロ
808億5000万円
4.2 8.2ユーロ
902円
1989 38 5%
中国 13億3430
2億1780
6億2600ユーロ
688億6000万円
0.16 28.5元
373円
4723 456 56.6%
インド 12億2070
29億
150ユーロ
1656億1240万円
2.41 27.7ルピー
57円
10120
(**)
1325
(**)
92%

(*) 公開本数も含む (**) 2008年統計
換算レート(2010年7月1日現在)
1ユーロ =110円、1$=100円、1ルーブル=3.1円、1ルピー=2.06円、1£=130円、1元=13.09円

出典:Bilan 2009 (CNC)
Focus 2009 (Marche du Film, Festival de Cannes)

 



(文中敬称略)
  《了》
映像新聞 2010年7月19日号掲載

中川洋吉・映画評論家