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SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2010
多様なコンペ作品に見ごたえ
社会派から娯楽まで勢ぞろい

 埼玉県川口市の総合映像センター、SKIPシティは、埼玉県川口市が新しい地域産業として映像事業に踏み込み、県や市も強力に後押ししている。 今年で7回目を迎えた「SKIPシティ国際 Dシネマ映画祭」は7月23日(金)から開始され、8月1日(日)に幕をおろした。世界85ヶ国から、長編は648本のエントリーがあり、国際的にもその知名度を徐々に上げている。オープニング上映は、先ごろ、アメリカのリメイク版「イエロー・ハンカチーフ」も公開された、山田洋次監督の「幸福の黄色いハンカチ」(77)のデジタルリマスター版であり、山田監督の舞台挨拶もあった 。

日本からの3作品含む13本選出

 コンペ出品数もまずまずで、何より、目に付いたことは、日本からの3作品を含む13本の作品の全体の粒が大変良く揃っていたことだ。このような年は初めてである。 コンペ部門のエントリー条件は、長篇製作が3本以内、そして、デジタルで撮影・編集された作品に限られる。デジタル作品は、今後、7,8年で映画の世界を席巻するのは既定の事実とされている。そのため、新人だけでなく、多くの映画人はデジタルへと舵を切り始めている。従って、この世界的流れに沿って、優秀な映画人のデジタル世界への参入が始まっている。その結果が、今年のDシネマ映画祭に反映しているのだろう。

アジア作品の実力

「けがれなき愛」
 韓国からの「けがれなき愛」(シン・ヨンスク監督)は古典的ラブロマンスであり特に目を引いた。 韓国の国民的俳優アン・ソンギ扮する、独身で人付き合いが苦手なカメラ修理職人が物語の主人公。彼は、今まで音信不通で、借金を踏み倒したクラスメートから、突然の呼出しを受ける。顔も見たくない旧友からの連絡、周囲に促され、苦り切って渋々病院へ行く。旧友は彼の手を握り、死後、大学生の娘の世話を懇願する。何で自分が頼まれねばならぬかと、益々苦り切る。旧友は、娘の家に毎日、様子見で顔を出してくれと言い残し他界。主人公は「何で、よりによってこの俺に頼むのか」と仏頂面。そこは、人のよさを前面に押し出す役は絶品のアン・ソンギ、仕方なく、幼い頃一度だけ会った娘の家へ顔を出す。初老男が若い娘の許にのこのこ訪れることへの抵抗感、上手く出ている。詐欺師まがいの一生を送った父と、可愛がっていた猫が死に、一人残された娘は終始ふくれっ面。男も、「何で、来てやったのに」と、馬鹿らしさが先に立つ。

  散々な最初の出会い。しかし、後は、大衆演劇を地で行くラブロマンス。紆余曲折、起伏がたっぷり仕掛けられているが、互いに相手のことばかり思う毎日。こうなれば本物の恋なのだ。
  この年齢差の開いたカップルの愛の成就、正に、絵空事の映画的世界。しかし、これが心地良い。これを、アン・ソンギの寡黙な芝居と、若い女性の中々気持を表に出せないオズオズ調との絡み合いが上手く調合され、映画的感興溢れる快作。監督のシン・ヨンシクは、これからが楽しみな若手。



中国の現況の照射

「透析」
(c)3C FILMS CO.LTD.

 「透析」はシナリオが良く練られている。登場人物は3人。裁判官、彼が手懸ける事件の死刑囚、そして腎臓を患う大金持ちの男。実話に基く骨太な社会派ドラマで、中国映画界が次々と送り出す監督たちの力を感じさせる。中国では、車の窃盗が2台以上であれば死刑と、法で定められていた。裁判官の合議でも裁判長ティエンは、別の裁判官から厳しすぎると指摘されるが、法は法と、死刑決定を下す。その彼の家庭は、数ヶ月前に盗難車による轢き逃げで娘の命が奪われる。

  それ以降、夫婦仲は冷え切り、夫が支度する夕食も妻は口にせず、ただただ愛玩犬を撫でるだけで会話不能状態。死刑判決が決定し、ある金持ちが死刑主の腎臓に大金を積み、一日も早い臓器移植を心待ちにしている。しかし、刑法が変り、窃盗の罪での死刑は廃止されることになる。処刑寸前にティエンは執行中止を主張し、上層部と対立するが、前法律を否定し、新法に従うことを何とか説得し、刑の執行は取り消される。困ったのは金持ちだ。ここに、死刑制度の、あまりに軽い人間の命の扱い方、そして、腎臓移植の困難という現在の中国の問題を射抜いている。今映画祭で、社会問題を扱った作品では随一だ。

中東の闇

「テヘラン」
 (c)Avenue B productions

 イラクの「闇への一歩」と、イラン・フランス製作の「テヘラン」も現実の社会問題に直接触れている。「闇への一歩」はイラクの農村で暮らす一少女が家族を殺され、兄を捜しに旅に出ることから物語が始まる。捜す兄はイラクを逃れ、トルコへ行き、その後を追う。途中で暴行されたり、イスラム武装団に助けられトルコへ辿り着く。ここからが単なる家族の物語ではなく、イスラム教徒の一員として行動が少女に求められる。そして、半ば、必然的に自爆テロ要員となる。悲惨なハナシだが、現在のイラク情勢を鑑みれば、とても作り話とは思えないインパクトがある。

  イラン・フランス製作の「テヘラン」の原題は「テルーン」で、同都市の汚い部分を現わす俗語とのこと。 テヘランに職を求め、家族を残し上京した男だが、簡単に望みの職が得られない。そして、手を染めたのが、赤ん坊のレンタル・ビジネス、要するに借りた赤ん坊をダシに大通りで物乞いをすることだ。しかし、ある時、一寸した油断から子供を売春婦に持ち逃げされ、赤ん坊レンタル・ビジネスの元締めから莫大な賠償金を請求される。折も折、故郷から夫の安否を気遣い身重の妻がやってくる。妻には苦しい嘘をつき、一方、金のために警官に化けて荒っぽい強盗を働き、何とか金を都合し、それを機に故郷に戻る。そこでは、妻が新しい命を産み、2人の新しい人生が始まる。現代イランの暗部を写し出し、表現の自由に干渉するイラン政府により当然睨まれたと思われるが、そこは、フランスとの合作で何とかクグ潜り抜けたと想像される。


愚直な青臭さ

 カナダの「不毛の丘」は50年代を背景とするもの。主人公一家は、他所からの移住者で村八分状態、父親が自殺、気丈な叔母が一人農園を守るが、周辺は、「おかしな女」扱い。15才の少年は施設に入れられるが、脱走して農園に舞い戻り、叔母と再び一緒に暮らす。村人の差別の中、少年は同年代の若者と密造酒製造を森の中で行う。しかし、仲買人の裏切りと執拗な警官の嫌がらせで密造酒商売を撤退するが、ここで負けじと彼は土地に残ることを決意。ミドコロ見処は閉鎖的世界にアラガ抗い、自分の足で立とうとする少年の気構えだ。このような、愚直な青臭さをストレートに出す海外の監督に、強烈な自意識が感じられる。この点が日本の若手映画人に欠けている。

ファンタジーとラブコメディ

 社会との関わり合いに重点を置いたコンペ作品に見るべきものが多い中、軽く、楽しい作品も選ばれ、選考のバランスの良さが感じられる。
ファンタジーものではノルウェーのお伽噺、「マジックシルバー」は寓意を込めた、子供も大人も楽しめる作品。山の洞窟では青いノームなる小人が王様をいただき暮らす。彼らの宝は闇を照らす銀で、これにより生活が成り立つ。心配ごとは、老齢の王様の体調が悪いことで、心配した幼い娘が里へ下り、お金を工面することになる。娘は一日一回洞窟が開く時間を利用し、恐る恐る里へと下りる。そこで、農家の納屋に忍び込むと、屋根裏に小人の赤いノームグループが棲息している。初めて見る他の小人の協力を得て、農家のコイン一枚を盗むが、赤いノームの仕業と睨んだ農場主は怒って、彼らを追い出しにかかる。困った青いノームの少女は彼らを洞窟に連れ帰る。ここから、ハナシが現実的となる。赤いノームは、銀に興味を示し、奪おうとし、悶着が起り、王様は盗んだコインの件で激怒。娘は、それを返すこととなる。CGを使わない、現実感が楽しい。

  一方、オーストラリアの「センタープレイス」は、アメリカ版を思わすラブコメディ。結婚を控え、パリへの新婚旅行を夢見る女性は、挙式前に縁切りされる。幸せ一杯の彼女の状況は一転する。そして、仕方なく元の「センタープレイス」の洋品ブティックを拝み倒し、再就職する。それから、彼女が幼い時に家を出たままの父や、昔振ったボーイフレンドが再登場し、話がややこしくなる。元彼とヨリを戻した彼女は、兼ねての夢、パリでの絵画留学を果す。総て、独りよがりでハッピーな女性の物語。英語圏作品らしい、辛らつな会話の応酬がスパイスとして効き、気の効いた一篇に仕上げられている。


多岐にわたる作品

 他に、第二次世界大戦中のナチスによる虐殺と、残された少女が、生まれたばかりの弟を必死で守るイタリーの「やがて来たる者」、貧しいながら、港の鉄屑を拾い生活の糧とするフィリピンの少年たちの明るさを描く「鉄屑と海と子供たち」、そして、番外出品、警察と強盗団の対決をテレビ放映する、犯罪のメディア化を描くロシアの「ニュースメーカーズ」(特別上映 審査対象外)のパンチのある作品なども面白い。社会派、メロドラマ、ラブコメディ、中東もの、そして、ファンタジーと、多岐に渉る作品は今年のレベルの高さを示した。日本からの「東京うんこ」はしっかり者の関西女とダメ東京男の物語で、若い作り手の感性が冴えた一作。物語は、突然、漫画を志向した東京男は、モノにならず、関西女が見よう見真似で描いた、うんこちゃんをテーマとする漫画で大ブレイクする笑える話。



(文中敬称略)
《了》
映像新聞 2010年8月2日号掲載

中川洋吉・映画評論家