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「ユニフランス」
フランス映画の振興活動
ユニフランスのアチョンドDGに聞く

レジーヌ・アチョンドDG

 フランス映画の海外プロモーション公的組織として、ユニフランスがある。フランス映画の海外売込みを主たる業務とし、それ以外に海外でのフランス映画祭の開催、そして、最近は統計作業にも力を入れ始めた。その詳細な統計資料は白書として発表され、日本におけるフランス映画の状況などが一目瞭然である。
  今年2月のパリ滞在中に、ユニフランスのジェネラル・ディレクター(以下DG)レジーヌ・アチョンドに話を聴く機会を得た。








ユニフランスとは

ユニフランス白書2009

 この組織の中核たるパリ本部は、パリ9区の古い街並みの面影が残る一角の3階建てパビリオンである。この付近、昔の貴族の館があり、その一つに映画・演劇著作権団体、「SACD」もある。ユニフランスの古いパビリオンの内部は現代的に改装され、専用の試写室もある。ここで、就任二年目、ナンバー2のアチェンドDGと会った。彼女は事務局長的な役割を果している。この組織のトップにはプロデューサーが就く決まりがあり、現役のアントワン・ドゥ・クレルモン=トネールが務めている。従って、実質的な運営はアチョンドDGに任されている。彼女は今年49歳で、キャリアの文化官僚だ。ヨーロッパ・ビジネススクール(EBS)と英国商工会議所附属パリ校を卒業し、ビジネス界に投じた。文化関係で頭角を現し始めたのは国立シャイヨー劇場の事務局長からで、その後、パリ市のイメージ・フォーラム(パリ市のシネマテック)そして、カンヌ映画祭監督週間の事務局長、パリ市の映画担当、市長の文化担当顧問を経て、昨年現在のポストに就いた。


ユニフランスの組織


 アチャンドDGによれば、「ユニフランスはCNC(国立映画・映像センター)を上部組織とし、1949年に設立されました。主として、プロデューサーを中心に600人の会員が加盟しています。予算は年間963万?(邦貨10億6000万円〔1?=110円換算〕)。そのうち約70%がCNC、その他外務省、貿易省などの助成で成り立っています。職員数は35名、海外にはニューヨーク、東京、北京に駐在事務所を設けています」。


フランス映画祭


19回目の日本開催は6月に
 今回の訪問の一番のテーマは、フランス映画と日本市場についてで、その点は、 「例年、開催しているフランス映画祭は、横浜から数えて19回目となります。東京会場になってからは、TOHOシネマズ 六本木ヒルズを会場にしてきました。これは、東宝のシネコンを活用し、その一角にフランス映画の上映を狙う、前会長のマルガレット・メネゴスの提案でした。しかしTOHO側は、映画祭に会場を貸すだけで、その後の劇場上映にはつながりませんでした。2006年からは、会場を横浜からビジネスの中心である東京に移し、六本木をメインとしましたが、この六本木開催も、フランス映画の日本市場への影響はさして変らず、今年から、会場を有楽町・朝日ホール、そして会期も従来の3月から、横浜開催以来の6月〔カンヌ映画祭明け〕に戻しました。私共は、フランス映画振興のため映画祭を重視してます。日本開催は今年で19回目となり、アジア戦略としては重要です。他に、見本市として毎年1月パリで新作を披露する『ランデヴー』を開催しています。ここに多くの映画関係者を招き、新作の売込みを図ります。2009年には、40本の新作の上映、世界の45ヶ国、420人のバイヤーが参加しました」。

 

フランス映画の世界市場


 2009年までのフランス映画の海外輸出統計が公表されている。世界中でフランス映画の観客数は6620万人、興行収入は3億5000万?(邦貨385億円)。輸出先は北米−37%、ヨーロッパ−27.9%、アジア−16.6%、中央アジア及び中東−16.6%、中南米−7.4%と、北米がトップを占める。その理由は「96時間」(原題「Taken」)の大ヒットによるものであり、2100万人の観客動員をしている。北米の一位は初めてで、例年、ヨーロッパが首位の座を占めていた。しかし、世界的に見れば、アメリカ市場は極めて特異で、手放しで喜んではいられない。アメリカにおける自国映画の割合は92%、そして、カナダ映画が約1%、残り7%強の市場を世界各国が競い、フランス映画の市場占有率は僅か1.7%、外国映画にとっては大変過酷な状況である。

ヨーロッパの後退


 ヨーロッパ諸国でのフランス映画の後退は顕著である。ドイツが13.6%、ベルギーが30%、スペインは40.3%、イタリアが6.1%、そして、英国は67.3%と大幅な減少振りだ。その理由として、動員力のある作品に恵まれなかったことが挙げられる。更に、近年の経済危機も作用している。このような減少傾向は中南米、豪州、ロシアにも言える。
  しかし、過去10年の統計を見れば、フランス映画の国外市場での観客動員は、2000年の約2倍であり、量的には増加している。また、2008年は外国市場での観客動員はここ10年で最高で、2009年は結果的に減少している。因みに、2008年と2009年の差は1600万人である。

日本におけるフランス映画


 2009年のフランス映画の公開本数は49本で、ここ5年の観客動員数は272万人(05)、179万人(06)、335万人(07)、82万人(08)、267万人(09)と起伏が激しい。特に2008年の落ち込みは激しい。これを市場占有率から見ると、1.5%(05)、1.1%(06)、2.1%(07)、0.5%(08)、1.6%(09)と意外なほど低い。
  主要ヒット作品は「ココ・アヴァン・シャネル」が63万人、「トランスポーター3 アンリミテッド」が53万人、「96時間」が36万人、「アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン」が27万人、いわゆるアメリカン・スタイル作品で、「トランスポーター3」と「96時間」の製作はリュック・ベッソンであり、英語圏市場狙いの作品だ。「ココ・アヴァン・シャネル」は、女性層を狙った典型的なフランス映画であり、他のアメリカン・スタイルのアクションものと共に日本におけるフランス映画の二本柱である。これ以外に、日本では社会性の強い監督作品やコメディは公開の場がない。この点が、日本市場におけるフランス映画が抱える問題点で、同様なことは日本の配給会社にも言える。
  フランス映画には戦前から多くのファンがおり、戦後、70年までは、学生、知識人を中心に根強い人気を誇ってきた。しかし、80年代以降は、アート系館での単館ロードショーが一般化し、多くの観客動員を期待できる存在ではなくなっている。地味なアート系作品中心で、スター性のある俳優はカトリーヌ・ドヌーヴくらいであろう。更に、近年の若者世代のヨーロッパ映画離れ現象、フランス映画の配給会社の倒産や苦境と良い材料に恵まれず、この状況の改善の兆しは見えない。フランス映画にとり、大変厳しい時代であるのは間違いなく、その対策の一つとしてのフランス映画祭がある。

アジア戦略に映画祭を重要視


 同じアジア諸国、中国、韓国の2009年統計を参考のため紹介する。 韓国は35本のフランス映画が公開され、291万人の観客動員、市場占拠率は1.9%と日本よりも割合が高い。中国は、外国映画輸入割当てが年間20本と制限され、そのうち、15,6本をアメリカ映画が占め、残りをフランス映画という構図で固まっている。2009年は4本公開され、437万人の観客動員、市場占有率は1.7%である。中国全体の観客動員数は2億4800万人と、そのパイは大きく、輸入制限はあるものの、数字的には、フランスにとり非常に興味深い市場である。フランスの最終的目的は中国にあるようだ。

輸出作品の統計なども整備


 10億円の予算規模で自国の映画産業プロモーションを展開するユニフランスに該当する組織は他の国には実質的に存在しない。日本のユニジャパンは、経産省、文化庁の委託調査費が主たる財源で、日本映画産業全体のプロモーションは担っていない。そのことは、日本にはまだ映画の助成を目的とする中央組織の不在につながる。
  最近は、ユニフランスの弱点であったフランス映画の輸出の統計が整備され、フランス映画の現状を分析する上で大変役立っている。

出典資料
− ユニフランス白書2009
− CNC白書2009
− FOCUS 2010(カンヌ映画祭見本市事務局編)



(文中敬称略)
《了》
映像新聞2011年3月21日号掲載号のオリジナル原稿より

中川洋吉・映画評論家