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「傷だらけのふたり」
面白さに富んだメロドラマ
登場人物それぞれが強烈な個性

 昨年の「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」(埼玉県川口市)で上映された韓国作品、ヤクザ男と普通の女性が主人公のメロドラマ、「傷だらけのふたり」が公開中である。人気男優ファン・ジョンミンと女優ハン・ヘジンを起用し、面白さに富んだ韓国作品だ。
監督は新人のハン・ドンウクで、第一回作品である。作品自体は格段、新しさを強調してないが、オーソドックスなメロドラマとして楽しめる。特に、人物造型がすぐれており、ユ・ガビョルの脚本はがっちりした構成で、味のある娯楽作品となっている。

アロハシャツ姿のティル(ファン・ジョンミン)の借金取立て業のヤクザ男と、OLのホジョン(ハン・ヘジン)のツーショット、何やら情けなさを感じさせる男性と隣りの若い女性、この2人が、一体、これから何をしでかすか、興味が募る。
主人公、ティルは40年間、自分の思い通りに生き、何も束縛されず、人生裏街道を闊歩してきた、武骨な男と設定されている。その彼が一目惚れしたホジョンへの一途の愛と、この2人に巻き込まれるに人間たちが織り成す人間ドラマである。定番もののメロドラマであるが、登場人物それぞれが強烈な個性を持ち、そこが面白い。


見せ場作りが巧みな韓国新人監督

ハン・ドンウク監督 (C)2013 NEXT ENTERTAINMENT WORLD Inc. & SANAI PICTURES Co. Ltd.

 初メガホンのハン・ドンウクは、映画界でのキャリアは長い。10代で映画界に飛び込み、韓国で2番目にカンヌ映画祭コンペ部門に選ばれたイム・グォンテク監督の「酔画仙」(02)や「下流人生〜愛こそすべて」(04)では照明、その後、助監督を長く務め、演出技術を磨き、今回の「傷だらけのふたり」に到る。彼は、一応新人だが、ベテラン新人と呼べる。彼のような長い裏方時代を送った監督は、話の運びが上手く、見せ場作りが巧みで、作品自体も面白い。
我が国では、照明助手として映画界に入った、崔洋一監督がこのタイプの監督である。

ヤクザの意外な一面

ファン・ジョンミン (C)2013 NEXT ENTERTAINMENT WORLD Inc. & SANAI PICTURES Co. Ltd.

 主人公のティルは荒っぽい借金取立てが売りで、乗り込んだ先でガソリンを撒き散らし、自らも飲むほどの荒業をやって見せる。エゲツない取り立てであるが、コワモテの割には人情もろく、取り立てた借金の1部を子供の塾費用として返してやるところがある。塾費用は、韓国の過熱する受験競争の激しさの暗喩である。このように、彼は、何かチグハグさを持ち合わせる人物として描かれる。ファン・ジュンミン自身は渋い美男子タイプだが、その彼が、情けないヤクザに見えるあたり、演出は彼の柄を上手く引き出している。

 

最初の出会い


ハン・ヘジン (C)2013 NEXT ENTERTAINMENT WORLD Inc. & SANAI PICTURES Co. Ltd.

 ティルの次の取り立ての舞台は病院だ。手下と病室に乗り込み、金を返せない病人をベッドごと外に連れ出す強引さは、見ている方が呆れてしまう。この傍若無人さが逆におかしみを誘う。
ベッドごと外に連れ出されそうになり、必死で止めようとする若い女性が娘のホジョンで、この穏やかでない状況で2人は出会う。そして、武骨な40男は娘を見て、一目で恋に落ちる。
娘は、ヤクザ連中から月利49%の証文に、無理やりサインさせられる。月49%とはべら棒な金利で、それを取り締まらない韓国社会も浮世離れしている。


アプローチ



ファン・ジョンミン(右)とハン・ヘジン(左)
(C)2013 NEXT ENTERTAINMENT WORLD Inc. & SANAI PICTURES Co. Ltd.
 ホジョンに熱を上げるティルは、彼女の勤める銀行の窓口に日参し、何とか彼女の気を惹こうと懸命である。彼女は、憎きヤクザ者のティルを無視する。
そこで、彼は一計を案じる。彼の会社の上司であり、昔からのワル仲間のドゥチョル(チョン・マンシク)に直談判し、自分のボーナスの代りに彼女の借金の棒引きを迫り、金利分は免除することで話をつける。その棒引きをネタに、彼は彼女に「1日1時間は付き合え」と強要する。

愛の誕生



ファン・ジョンミン(左)とハン・ヘジン(右)
(C)2013 NEXT ENTERTAINMENT WORLD Inc. & SANAI PICTURES Co. Ltd.
 強引な口説き、しかも、借金の棒引きとくれば、渋々、彼と付き合わざるを得ないホジョン。最初は嫌々ながらの付き合いであったが、ある日、父親の病床を訪れた彼女は、ティルが、父親を屋上に連れ出したことを知り、大慌てで駆けつける。そこで、ティルは一生懸命、マンガを読み聞かせているのであった。彼のこの荒っぽい親切に触れ、彼女は、ティルの心根の優しさが分かり始め、次第に心を開く。誠に、絵に描いたようなメロドラマ的展開であるが、この古典的趣向は案外心地良いのだ。偉大なるマンネリの良さである。







枝葉の面白さ



 一途の愛と共に、枝葉の人間関係が面白い。金融会社の社長でティルの旧友であるドゥチョルの悪党ぶりも極まっている。切羽詰まったティルをお為ごかしの振りをしてだますくだりは、見せ場である。ヤクザの狡猾さ、人を平気でハメル悪辣さと、面白い役どころだ。
演じるチョン・マンシクの、表面はにこやかだが、ずる賢い本性を持つ人物造型としては良く出来ている。この彼の登場シーンも、何となく胡散臭いにおいがする。この辺り、役者としての持味が良く出ており、善人役でもはまると思われる、得難い役者だ。


騒々しい家族



 若くして家を飛び出したティルには、兄一家が一番近い家族だが、2人の兄弟仲がきわめて悪い。そこを美人嫁が、何となく間に入って丸く収めている毎日である。兄は床屋、本当は大学に行きたかったが、経済的な理由か、あるいは、頭が悪かったのか、田舎の床屋でくすぶったままで、そのコンプレックスが彼の日常的不満の種となっている。家族の潤滑油たる美人妻も床屋で、客の1人が、お尻をすぐ触るのを見て、腹を立てた亭主がこの客との大立ち廻り、何か痴話げんかを見ているようで、大笑い。

2分割の構成



 親しくなったティルとホジョンは、彼が堅気になり、ホジョンとチキンの店を出すことになり、物件探しを始め、ほぼ決まりかけた頃、彼は傷害事件を起こし刑務所入り。彼女はすっぽかされ、怒り心頭。
そして、話は2年後に進む。3年の刑で服役したティルは何故か刑期満了を待たずの突然の釈放。表面的には模範囚とされているが、真相は、彼の不治の病で、外に出されたのだ。この病が後半の大きな伏線となり、物語を締めている。

韓国映画らしさ



 『傷だらけのふたり』は韓国映画らしさに満ちている。主人公はマッチョ男、この手の上手い俳優は、作品に存在感を与える。
女主人公のハン・ヘジン、前へ、前へ出るタイプではなく、受けの芝居で、強引なティルとは好一対だ。人気女優の彼女、柄として賢い女性が合っているようだ。
本作、メロドラマ仕立てであるが、そこはかとなく人生を感じさせるところに、作品としての良さがある。しかも、面白い。




 


(文中敬称略)

《了》


4月4日(土)シネマート新宿、シネマート心斎橋 他 全国順次公開!
映像新聞2015年4月6日掲載号より転載

中川洋吉・映画評論家

ハン・ドンウク監督