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映画祭「第16回東京フィルメックス」
中国社会の現状映す
ドキュメンタリーなどの秀作


チャオ・リャン監督「ベヒモス」
(中国、審査員特別賞)

 「第16回東京フィルメックス」が11月21日から29日まで、東京・有楽町朝日ホールを中心に開催された。根強いアジア映画愛好家たちに支えられた本映画祭。内容的に、コンペ、特別招待作品、ツァイ・ミンリャン監督特集、ホウ・シャオシェン監督特集等、多彩なプログラム構成であった。
中国のドキュメンタリー「ベヒモス」(チャオ・リャン監督、審査員特別賞)は、群を抜く出来栄えである。冒頭、鉱山の巨大な穴の大写しで始まる。豊かな資源の裏に、環境破壊と健康問題が浮かび上がる。発展と破壊が表裏一体となった中国の現状が、せりふのない映像だけで畳み掛けられる。ベヒモスとは、旧約聖書に出てくる怪物の意。
グランプリは中国作品「タルロ」(ぺマツェテン監督)が獲得。フィルメックス好みの難解な作品で、見る側にとり悩ましい。主人公は僻地(へきち)の羊飼いタルロである。異常な記憶力持ち主で、毛語録を暗唱している田舎者の彼はIDカードの申請のため街へ下り、生活が一変する。中国の現代文明と伝統社会の落差に翻弄(ほんろう)される人間像が物悲しい。全編モノクロ、長回し、説明の省略と実験映画を見ているようだ。
中国社会を反映する作品が「最愛の子」(ピーター・チャン監督・特別招待、観客賞)である。中国では人身売買や幼児誘拐事件が多く、社会問題化している。
子どもを誘拐された両親が、必死に探し回り、ついに見つけ出す。子どもは、地方の農家で実子として育てられ、ヴィッキイ・チャオ扮(ふん)する育ての母は、子どもが亡夫により誘拐されたことを知らず、我が子として愛情を注ぎ育てる。その子が生みの親許(おやもと)へ戻され、育ての親が子どもを探しに都会へ出てくる。話は現実感に富み面白く、奥行きがある。単なる親子の絆だけでなく、社会的良心に触れるところに感動がある。
他に特別招待枠で、ジャ・ジャンクー監督の「山河ノスタルジア」は、20~30年後の中国近未来を見据える視点が冴(さ)えている。
イラン国内での映画活動禁止中のジャファル・パナヒ監督作品「タクシー」のひねりが面白い。彼自身が運転手に扮するドキュメンタリーで、客とのやり取りを描き、当局の弾圧を軽やかにすり抜ける抵抗ぶりが洒落(しゃれ)ている。




(文中敬称略)

《了》


「赤旗」2015年12月4日掲載号より転載

 

中川洋吉・映画評論家