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『パーフェクト・レボリューション』
実話を基にした若手監督の快作
障害者と風俗嬢による幸せの「革命」

 久々に日本映画界若手の手になる快作を目にすることができた。『パーフェクト・レボリューション』(以下『パーフェクト』/松本准平監督)である。社会的側面と有史以来、娯楽の王道であるメロドラマ両面にらみの快作であり、久々に耳にする「革命」の語が快い。


物語の背景

坂道を駆け下りる2人
(C)2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会

  深刻なテーマをユーモアに描く
主人公クマ(リリー・フランキー)は、生まれながらの重度の脳性まひ障害により、車いす生活を送る。彼は「障害者だって恋をしたいし、セックスもしたい」と講演活動にいそしみ、また、著作もある。障害者の性は皆が目をつむり、現在も続く大事な問題でありながら、適当な解決法を見つけられないのが現状である。この問題を作品の芯(しん)とし、物語は成立する。
女性主人公ミツ(清野菜名)は、障害者のクマに好意を持ち、積極的にアプローチする。明るく笑顔が眩(まぶ)しい風俗嬢であり、いつもド派手な進駐軍兵士たちが好んだジャンパーとミニスカート、そして髪はピンクと、一際目立ついで立ちだ。
社会的に存在価値が低い立場におとしめられるクマと、性労働者のミツの愛の成就がメインストーリーだ。


クマ

クマ
(C)2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会


 リリー・フランキーは元々の俳優出身ではないが、うさんくさく、自らは前に出ないズルく、ちょっと好色な中年男を演じさせたら絶品の大変うまい役者だ。彼の芸名、リリー・フランキーからしてうさんくさい。
その彼の、障害者はかわいそうな存在と見せかける裏技も大変なものだ。冒頭、障害者の特権を利用して書店の高い位置にある本を女店員に探させ、彼女のミニスカートの中をのぞき込もうとする、狡猾(こうかつ)なスケベぶりは、堂に行ったものである。



ミツ

講演会場のミツ
(C)2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会

 とにかく明るく、行動的な若い風俗嬢のミツは「仕事は、男を喜ばし、復讐すること」と公言する。世間体などまるで無視の言動でクマを戸惑わせるが、本人は一向に悪びれたところがなく、クマを誘う。彼女の無警戒とも思われるナイーブさは、本質的に人を喜ばそうとする性格に由来する。しかし、その明るさは、自分が努力して作り上げたものでもある。
ミツの親代わりの占い師、晶子(余貴美子)によれば、彼女には人格障害と呼ぶ、社会とうまく適合できない障害がある。それは、誰からも愛されない幼少時代の境遇のためである。性的にだらしない母親の男狂いを見て育ち、本当のところ、男を喜ばすよりも男にむしばまれていると、晶子は語る。
今のミツは必死に暗い現実に対応している。さもなければ生きていけないからである。



原案者

ディスコの2人
(C)2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会

 『パーフェクト』は実話を基とし、企画・原案は、講演やイべントなどの活動を通じて、障害者の性への理解を訴え続ける活動家、熊篠慶彦である。
熊篠は、主演のリリー・フランキーとは10年来の友人で、その縁で企画が松本監督へ持ち込まれ、紆余(うよ)曲折の後、今年、公開にこぎ着けた。



親密度アップ

晶子(右)、クマ、恵理の三者会議
(C)2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会

 講演後の質問者の1人にミツがおり、性と愛について質問をし、クマを少しばかり慌てさせる。その後、クマはミツの追っかけ攻勢に見舞われる。
ミツは、車いすと走りでの競争を彼に持ち掛ける。しかし、彼は側溝の前で尻込みする。段差も何のそのとミツが車いすを押し、後ろに乗って坂を駆け下りる。クマにとり、生まれて初めての身の縮む体験である。これを機に2人の親密度は一段と増す。
ミツは、車いすのクマの上にまたがり性交を強行する。面喰うクマ。この辺りの、中年オヤジの慌てぶりとミツの奔放さが笑える。むしろ、ほほえましい性の交流であり、2人の距離はさらに狭まる。


革命

幸せいっぱいの2人
(C)2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会

 「生まれも性別も、職業も能力も、お金も年齢も、幸せには関係ないことを世界に証言するの。本当の幸せを」とのセリフは、奔放なミツにとり、いささかクサイ大言壮語であるが、ミツの精一杯の心情の吐露である。
そして2人は、周りに立ちはだかる壁をぶち壊して、完全な革命を成し遂げようとする。愛による革命であり、世の中への挑戦である。それを2人はやってのけようとする。



メディアの陳腐さ

別れ話の海岸の2人
(C)2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会

 2人はマスコミの注目するところとなる。脳性まひ障害者と性労働者の組み合わせ。飛びつかないはずがない。クマは寡黙に、ミツは喜びいっぱいの表情でテレビのインタビューを受ける。
しかし、テレビ局側は、もっと障害者らしく、もっと風俗嬢らしくと、彼らの既成概念を押し付けてくる。本当の2人の愛を、制作者は勝手に自分らの既成概念の中に押し込む意図である。彼らにとり2人の愛の姿はどうでもよく、かわいそうな障害者らしさと不幸な性労働者らしさを要求する。
ドキュメンタリーを気取るが、制作者たちは勝手に自分たちの思い入れを優先させる。マスコミの浅さ、陳腐さを軽蔑しつつ、2人が腹の中で大笑いしている図が容易に想像できる。彼らの愛は浅いマスコミの魂胆を見抜いている。


愛を阻むもの

 クマは、ミツを結婚相手として実家へ伴う。たまの帰省、クマの親類一族勢ぞろいで迎えられる。相変わらずド派手ななりのミツ、まず、そこで田舎の人々を驚かす。何か場違いなミツだが、一応しおらしく振舞う。
親戚の1人は、障害者と暮らす困難さを説く。そして、クマの母や弟がどれほどの犠牲を払ったかを強調する。さらに、彼女を見下す親戚の態度に我慢できなくなったミツは、全人格を否定された思いで、テーブルの寿司を壁に投げつけ退席。この夜、彼女は手首を切り自殺を図る。


愛の成就

 入院中のミツをクマがおそるおそる見舞う。目を覚ましたミツは一言「生きていたの」。その言葉にクマは「それはこっちの言うセリフ」と応酬。全編、このようなユーモア精神があふれ、作品自体の辛気臭さをカバーする松本監督のセンスは、作品の見どころ。
回復後ミツは、クマのヘルパーである恵理(小池栄子)の発案で精神病院に入る。そのころ彼女は、結婚して子供を作ることを提案するが、子供の時に治療で腰に大量の放射線を浴びたクマは拒否。そのことが元で、2人の距離は遠のく。ミツの「革命は失敗」の一言が、2人の心情を表している。
しかしラストは、メロドラマらしく再会し、革命の新しい一歩を踏み出す。


若手監督の手腕

 松本監督は、映画界の"絶滅危惧種"の東京大学(工学部建築学科)卒である。何で食えない映画監督の道を選んだのだろうか。もったいない気がする。別に東大出身者が偉いわけではないが、昨今の若手監督の知性の欠如を思うと、彼の存在は悪くない。
「障害者の性」をテーマとする本作、主役、脇役がともに良く、深刻なテーマをメロドラマに包み込み見せる手腕が、本作の注目すべきところである。




(文中敬称略)

《了》

9月29日からTOHOシネマズ 新宿他で全国ロードショー

映像新聞2017年9月25日掲載号より転載

 

中川洋吉・映画評論家