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朝日新聞 2008年5月5日 掲載

【5月14日(水)〜 25日(日)カンヌ国際映画祭】世界の監督と太いパイプ 仏と共同制作、受賞に有利



映画評論家 中川洋吉
なかがわ・ようきち 42年生まれ。
大映東京撮影所を経て渡仏、評論家に。カンヌ映画祭の「世界の映画ジャーナリスト30人」に日本人で唯一選ばれた。

― 数ある映画祭の中で、南仏カンヌとイタリア・ベネチア、ベルリンが「世界3大映画祭」といわれます。
「歴史のあるベネチア映画祭が戦中に全体主義の影響が強まったため、仏が対抗して46年、国策として始めたのがカンヌ国際映画祭だ。政府機関の仏国立映画センター(CNC)は年約800億円の振興予算を持ち、カンヌへ毎年5億円以上を支援する」


― 「パルムドール」が最高賞ですね。
「意味は『金のシュロ』。本選に残った20前後の作品の中から、最高賞や男優賞、女優賞などを選ぶ。他に多くの部門を持ち、商業色が薄く個性の強い作品が並ぶ『ある視点』部門では、今回は黒沢清監督の『トウキョウソナタ』が対象20本のうちの1本に選ばれた。
若手監督の作品を集めた『監督週間』部門もあり、すみ分けと競争で厚みをつけている」



― ベネチアやベルリンとの違いは。
「上映施設など会場規模でカンヌはベネチアのほぼ2倍。ベルリンは寒い2月の開催で、集客の点でやや不利だ。カンヌは関係者が世界中の監督とパイプを持ち、
情報収集力が強みだ。世界各地から作品を選ぶ配慮もある。だから約4500人の報道関係者がやってくる」
「ライバルの米国映画界をうまく取り込んでいる。多くのハリウッドスターが乗り込み、世界中が注目する仕掛けは他をしのぐ」


― 最近、カンヌ映画祭のジル・ジャコブ会長に会ったそうですね。
「彼はカンヌを大きくした功労者。五輪に商業主義を取り込んだサマランチ前国際オリンピック委員会(IOC)会長も顔負けの手腕で、1業種1社のスポンサー制を導入し、テレビ1局に独占放映権を与えた。米アカデミー賞などと対抗してきた歴史をどう守るかが課題だ」


― 審査員はどう選ばれるのですか。
「事務局の権限で10人近くを選ぶ。今年の審査委員長は、米国の歌手マドンナの元夫のショーン・ペン。俳優から監督に転じた話題の人だ」

― 日本作品も目立ちます。
「これまで4本が最高賞を受けた。今村昌平監督は『楢山節考』『うなぎ』で2度受賞しており、世界でも珍しい。本選に残る作品は、50年代はほぼ毎年2、3本、60年代以降も毎年のように選ばれた」
「最近では、河瀬直美、青山真治、小林政広の各監督の作品が本選に残った。昨年の映画祭60周年記念オムニバス作品には、世界を代表する35人の監督の1人として、北野武監督が選出された。説明を省略した刺激的な作風が、現代の日本を語るとして好感された」


― 仏映画界の支援を受けた作品は有利ですか。
「河瀬監督は97年に『萌(モエ)の朱雀(スザク)』で新人監督賞を受け、昨年には『殯の森』が第2席のグランプリを受賞した。運の強い監督だが、『殯(モガリ)の森』は仏制作会社が資金の3分の1を負担し、その一部はCNCから出た。日仏共同制作は作品をカンヌ関係者に認知されるのに有利だ。河瀬監督の次回作も仏との共同制作。どんどん助成制度を使ってカンヌに食い込むべきだ」


(聞き手・山下努)



朝日新聞 2008年5月5日 掲載