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東京新聞 2008年5月28日(夕刊)より転載
【5月14日(水)〜 25日(日)カンヌ国際映画祭】世界の監督と太いパイプ 仏と共同制作、受賞に有利

「パルムドール カンテ監督」 

 第61回カンヌ映画祭は、25日にフランス映画「クラス」がパルムドール(最高賞)を獲得し、幕を閉じた。
 ここ数年、パブリックとメディアの嗜好の乖離現象が著しく、映画祭は難しく、高踏的な作品を選考する傾向が強くなってきている。
 「クラス」は21年振りのフランス作品のパルムドールで、発表後、壇上はお祭り騒ぎとなった。作風は観念的ではなく、現実と向き合う教育姿勢を強く打ち出している。パリ郊外の14才の生徒24人と、1人のフランス語教師との現場のやり取りをドキュ・フィクション・スタイルで描く作品。ロラン・カンテ監督は46才の社会派で、短篇で認められ、その後、各映画祭の長篇部門で数々の賞を得ている。

 日本からはノンコンペの「ある視点」部門に黒沢清監督の「トウキョウソナタ」が出品され、第二席に当る審査員賞を受賞した。既にカンヌでの知名度の高い黒沢作品には熱心な観客が詰め掛けた。テーマは家族の崩壊と再生を扱っているが、ストーリーのヌルさが気になる。

 今年は、南米、イタリア作品が上昇気流に乗っていた。この南米の勢いは、次々と左派政権が誕生する政治的風土と無関係とは思えない。刑務所内での出産と育児を扱う「レオネラ」(アルゼンチン)、貧しさからサッカーで這い上がろうとする貧困層を描く「リナ・デ・パッセ」(ブラジル、主演女優賞)がある。
 イタリアの躍進も目を見張る。ナポリのマフィア抗争がテーマの「ゴモラ」(グランプリ)、イタリア政界に長く君臨した政治家アンドレオッティの権力掌握力を描いた「イル・ディヴォ」(審査員賞)は、不正義、貧困に社会的視点で斬り込む力作である。
 同じく社会派の強力な作品として、「ある視点」部門のオープニング作品「ハンガー」(英国、カメラドール『新人監督賞』)は見応えがあった。アイルランド独立の闘士らがハンガーストで獄死する事件を描くもので、命を賭けて戦うことが何であるかを考えさせる。

 受賞対象とはならなかったが、中国のジャ・ジャンクー監督の「二十四城記」、韓国のキム・ジウン監督の「善玉、悪玉、気狂い」のソウル製マカロニウェスタンは大喝采であった。
 「クラス」のパルムドール受賞は、フランス国内でも好意的に受け止められ、「ル・モンド」紙は、現代の社会問題に直接向き合っていると高く評価している。



(中川洋吉 映画評論家)



東京新聞 2008年5月28日(夕刊)より転載