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「FIPA2007 20周年記念」 その(1)

FIPA(国際テレビ映像フェスティヴァル−フィパ)は、今年で20周年を迎えた。1987年に地中海沿岸、カンヌで2月に開催され、その後、大西洋沿岸、ビアリッツに会場を移した。

当初、カンヌ映画祭監督週間の総代表を務めていたピエール=アンリ・ドゥロが、監督週間と併行し、立ち上げたテレビ映像フェスティヴァルである。新たな映像としてのテレビに着目し、今やヨーロッパ随一のテレビ映像フェスティヴァルの評価を確立し、ドゥロ総代表の試みは成功した。兼任の監督週間総代表のポストを30年永続勤務後に辞し、現在は、FIPA専任となり、選考を一人で担当している。彼の右腕がジャン=ミッシェル・オセーユ事務局長で、この二人を中心にFIPAは運営されている。

雪のビアリッツ

「FIPA2007」は、1月23日から28日まで開催された。今年のビアリッツの気候は例年と大きく異なり、温暖なイメージとは程遠いものであった。雨が多く、ナカビ中日には、ビアリッツ市民も10年以上見ていない雪が降り、更に嵐と荒れ模様であった。真冬1月でも燦々たる陽光を浴びてのゴルフや、マリンスポーツのメッカとして聞こえ、その代表的スポーツ、サーフィンのイメージで売る保養地ビアリッツが雪化粧し、濃霧が発生し、空港で大混乱が起きた。







参加人員

このような異常気象に拘らず、FIPAは、前年を上回る盛況振りであった。全体のアクレディタション(バッジ取得者)は、ほぼ2400人で昨年を上回った。参加者の多くがテレビ、ドキュメンタリー映像関係者で、テレビ局の参加は60社を数えた。参加者の中には殆どアメリカ人はいない。これは、アメリカテレビ局、HBOのような大手が、世界の三大映画祭にしか作品を出品しない方針を取っていることも一因である。他のアメリカ大手テレビ局も、独自の販売網を確立し、ヨーロッパにおけるフェスティヴァルの必要性を認めず、彼らもHBO同様、FIPAには参加しない。しかし、アメリカを除き、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、そして、アメリカを除くアメリカ大陸からは出品される。
地元フランスを中心とし、ヨーロッパ、アジア、アメリカ大陸、少数ながらアフリカ大陸で構成される、この傾向は、カンヌ映画祭と似ている。コンペ部門にアメリカ作品は出るが、見本市には出品していない。
FIPAはヨーロッパがメインで、その中核にフランスが位置する、テレビ映像フェスティヴァルと定義出来る。

助成について

全体予算は、約1億8千万円で、そのうち、30%がCNC(フランス国立映画センター 文化省直轄団体)で40%が各種の著作権団体からの助成、そして、残りが、スポンサーによっている。著作権団体の助成とは、日本流に言えば、音楽著作権団体JASRACが映画祭を助成するようなものであり、フランスの場合、著作権団体の文化事業への助成が非常に活発である。

スポンサーに関しては、例年、ルノー社が公用車として20台無料貸与したが、今年度は同社の方針が変わり、韓国のKIAがとって変わった。見本市に当たるFIPATEL(フィパテル)の100台のモニターも韓国製であり、同国の強い経済攻勢が感じられる。日本も一時、フランス法人フジフィルムが参加したが、今は一社も見当たらない。

FIPAは、独自性を守るために、テレビ局からの助成は受けない。これは丁度、カンヌ映画祭でワーナーやフォックスなどのメジャーからの助成を受けないことと同様である。出品者がスポンサーとなると公平性を欠くことが、その大きな理由である。
但し、クロージングパーティは、仏独国営教養局「アルテ」社の負担であった。料理、シャンパンが供され、中央フロアではディスコ音楽に合わせ踊りが炸裂、出品監督、審査員を囲んでのフランス流の打上げであった。以前は、フランス・テレビジョン、カナル・プリュスもパーティの費用負担をしていた。

エントリー数

今年の数字だが、非電脳派のドゥロ総代表の手書きノートから引用する。万事オープンなFIPA、アシスタントに頼めば、直ぐにコピーが受取れる。

本年の総エントリー数は2078本で、そのうち108本が6部門(テレビ映画、連続もの、ドキュメンタリー、ルポルタージュ、音楽・ダンス、短篇)に選考された。この選考は、ドゥロ総代表の独断と偏見で、彼の好みにより選ばれる。大変に非民主的であるが、これは彼が明言していることなのだ。100本以上のエントリーは、カナダ(139本)、オランダ(133本)、ドイツ(123本)、イタリア(116本)で、90本台は英国(98本)、ベルギー(95本)、スイス(95本)である。

アジア勢は中国が78本、日本が15本、韓国が1本と、中国の勢いが図抜けている。中国の場合、国営局の出品で、政府のフルイに掛けられたものが多いとのこと。
韓国は駐在員が空席のため、昨年、今年と出品は振わない。昨年、40本弱の作品をエントリーした日本は激減で、地方局からの出品の手控えが響いた。作品の端境期であったと考えられる。特筆すべきは、51本エントリーしたエジプトで、作品内容も良かったとドゥロ総代表は高く評価している。
エントリー後、各作品は、それぞれの部門の審査員により、フィパドール(金賞)、フィパダルジャン(銀賞)が与えられる。
FIPAの最大の難関は、各部門のコンペに選考されることで、その決定はドゥロ総代表の胸三寸なのだ。

選考作品数

次に、コンペに選考された作品を国別に見ると、エントリー数が一番多かったカナダが10本、ドイツが12本である。イタリア、ロシアが各8本、ベルギーが7本、英国が6本で、今年特に高評価を得たエジプトからは5本選ばれている。アジアからは日本の2本だけで、中国、韓国からは零である。総じて、選考されても1〜2本のケースが多い。
ここに、エントリーからコンペへの選考の難しさを痛感する。ヨーロッパでコンペ常連のスペインは、82本のエントリーにも拘らず、コンペ選考は零で、スペインのテレビ関係者の落胆と怒りが目に見えるようだ。

日本出品作品
 
今年の日本からの出品作品は、左記の15本である。
「ありがとう」(伊勢真一監督)(ドキュメンタリー部門選考)
「僕らは"玉砕"しなかった 少年少女たちのサイパン戦」(中尾益巳演出、NHK)
(ドキュメンタリー部門選考)
「硫黄島玉砕戦 61年目の証言」(内藤誠吾、山岸秀樹演出、NHK)(フィパテル)
「日本と戦った日系人 GHQ通訳 苦悩の歳月」(森谷渉演出、NHK)(フィパテル)
「海にすわる〜辺野古600日の闘い〜」(三上智恵制作、琉球朝日放送) (フィパテル)
「CAMOCER−サマショール〜長崎そしてチェルノブイリ」(馬場明子演出、テレビ西日本)(フィパテル)
「ツヒノスミカ」(山本起也監督)
「プージェー」(山田和也監督)
「老犬クー太 十八歳」(小堺正記演出、NHK)
「カナリアの子供たち」(水島宏明演出、NTV)
「子供たちの心が見えない」(水島宏明演出、NTV)
「白神の心」(成田照夫演出、青森朝日放送)
「沖縄密約の真実」(植村俊和演出、テレビ朝日)
「明日へのストローク」(峯島孝斉選出、静岡朝日テレビ)
「捨てられた命」(山下晴海演出、山陽放送)

以上、15本中、フィパコンペ部門に2作、フィパテルに4本と、まずまずの成績であり、しかも、作品の質は間違いなく高かった。
「CAMOCER−サマショール〜長崎そしてチェルノブイリ」 (C)テレビ西日本
「海にすわる」 (C)琉球朝日放送


今後へ向けて
 
今年度の日本からのエントリー数の激減は来年度への課題であり、改善を図る必要がある。
FIPAが日本に紹介されてからほぼ10年になり、知名度も少しずつ浸透してきた。しかし、大きな問題がある。第一の問題は、他の海外のフェスティヴァルと違い、メインの言語がフランス語という縛りである。この点、英語圏民族である日本人にはつらい。

もう一点、日本のテレビ局のFIPAへの関心が薄いことである。世界のテレビ映像フェスティヴァルは、番組ソフトを大量に購入する場である、FIPAのように、質で勝負し、単品買いが主流であるフェスティヴァルには、日本のテレビ関係者の足は遠のきがちである。
 但し、ドキュメンタリー制作担当部門、キー局の人材を揃えた国際部門の存在、そして、意欲溢れる、テレビ局以外の独立制作プロや監督たちに意気込みがあってこそ、エントリー数を保ってきたのであった。
キー局、地方局、そして、独立プロが3本柱として、日本からのエントリーを支えて行くことが、今後も望まれる。

(敬称文中略)
《続く》
           

中川洋吉・映画評論家