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 「FIPA2008」は例年以上にテーマが社会的であった。この硬質路線、FIPAたる所以であり、 質重視のテレビ映像フェスティヴァルとして存在感を新たにした。今年は、FIPATELに参加のテレビ東京と北海道文化放送がビアリッツ入りした。FIPATELという、小さなモニターから世界へ向けた大きな窓へと 様々な作品に直接触れ、ドキュメンタリーを世界的視野で考える下地が得られたように思えた。来年以降もテレビ制作会社や テレビ局の参加を切に希望してやまない。
追記:ビアリッツの本年の写真、ビアリッツの魅力(ビアリッツ2008)に掲載されております。


「FIPA2008 (1) − 全体像」 


 今年で21回目を迎えた「FIPA(国際テレビ映像フェスティヴァル−フィパ)2008」は、例年通り、フランス南西部、スペイン国境のビアリッツ市で2008年1月22日から27日まで開催された。
全体的には、テレビ映像に特化したフェスティヴァルとして、安定期に入った印象を受けた。
フランスのマスコミはFIPAをクオリティ、作品の多様性、更に、社会問題に対する意識の高さを評価している。しかし、基盤は固まったとはいえ、幾つかの問題も抱えている。

 会期中のビアリッツは、陽光、雨雲、濃霧と様々な顔を見せた。しかし、最高温度15度、水温12度と、その温暖な気候に変わりはなかった。晴天時は、マリンスポーツのメッカらしく、海岸で多くのサーファーを見かけた。


FIPAの組織

FIPA会場、ガール・デュ・ミディ

 FIPAは21年前に、当時、カンヌ映画祭監督週間総代表、ピエール=アンリ・ドゥロにより立ち上げられた。監督週間は、68年5月革命の翌年にフランス監督協会の強い突き上げで創設され、多くの新しい才能を発掘したが、そのうちの一人が大島渚監督であり、彼とドゥロとは永年の盟友関係にある。監督週間のトップを任された映画青年ドゥロは、以来、30年間そのポストに留まった。このポスト在任中に、テレビ映像の将来性を確信し、FIPAを創設。現在は、総代表としてFIPAに専念している。
 映画よりも、テレビ映像視聴者数の圧倒的多さ、今後のネットにおける映像発信を考えれば、ドゥロの着目点は正解であり、それを形にしたのがFIPAと言えよう。
 テレビ映像と映画の垣根がどんどん低くなる時代を受けて、FIPAでは創設時から、フィクション(テレフィルム)とシリーズ2部門をコンペ内に設けている。他の多くのテレビ映像、ドキュメンタリー映画祭でも、この2部門を設けているのはFIPA位とのこと。

今年のFIPA

マルチナ・ゲデクと日本代表団
 毎年FIPAの入場者は5%ずつ増えている。昨年実績で、一般上映のチケット販売数は2万7千枚である。登録参加者は、今年は2500人を超えている。
 第1次選考(エントリー作品をコンペ部門へノミネート)を自分の目で見て決めるドゥロの作品選考に関する基準は、オリジナリティと、真の世界観(real vision of the world)の2点である。
 彼は、この基準に沿い1756本の作品を見、コンペ5部門(フィクション、シリーズ、ドキュメンタリー、ルポルタージュ、音楽・ダンス)のために59本(31ヶ国)を選んだ。
 エントリー国は65ヶ国と、それは世界5大大陸に渉り、今年は、アフリカのモリタニア、南米のウルグアイから初エントリーがあった。
 今年の傾向として、昨年、一昨年とフィクション部門で大量受賞したロシアが後退し、フランスのテレフィルムのクオリティの高さが目立った。
 ドキュメンタリー、ルポルタージュ部門ではドイツ、イタリアの快復が顕著であった。例年、秀れた才能を見せるイスラエルは、本年は目ぼしい成果がなかった。
 本選にノミネートされた59本に加えて、見本市に当たるFIPATEL(フィパテル)では、選抜された242本の作品がモニターで見られる。この中で、英国チャンネル・フォーの作品(民間の教養番組局として定評がある)がルポルタージュ部門に選ばれた。しかし、FIPATELでは放映されず、参加者の指摘により、ドゥロが直々に調べた。チャンネル・フォー局は、モニター放映のためのエンコード費(1作品、約1万円弱)の支払いを拒否したとのこと。大英帝国のコマ細かさに驚かされる。


FIPATEL

FIPATEL内部

 年々発展するFIPATELは、選抜制見本市で、ソフト供給のため、作品の大量購入の場であるほかのテレビ映像フェスティヴァルとは性格が異なる。
 FIPAはクオリティを重視し、作品も、番組の穴埋め用ではなく、単品買いの見本市である。昨年は234人のバイヤーが登録し、今年は250人を超えることが予想されるが、数ではなくクオリティで勝負するだけに、ビジネス面から見れば厳しい。
 見本市自体は順調に稼動し、参加者数も少しずつ増加している。しかし、ドゥロによれば、
「フランス人バイヤー数は年々増加し、大手テレビ局10社は常連として毎年顔を見せる。しかし、フィクション、シリーズ部門では、フランスのテレビ局は、英米圏作品を主として購入し、自国やヨーロッパ作品への関心が薄い。これは、視聴者の好みを反映している。更に、FIPAの体質であるクオリティ重視のため、軽く見やすいものよりは、シリアスな作品が多く、ここがネックとなっている。又、FIPAに選ばれれば、フランス語、或いは、フランス語字幕が義務付けられ、購入側としては、更に他言語字幕の必要性が生ずる。昨年の例をとれば、シリーズ部門の金賞、ロシア作品『フランツとポーリンヌ』は未だ買手がつかない。ヨーロッパで、力のあるフランスのテレビ局の英米志向と言葉の問題で、ビジネスの発展は今一つである。
 このように、フランス語圏からの発信の難しさがあり、時間をかけ克服せねばならぬ問題である」

事務局長と予算

ドゥロ総代表(右)、オセイユ事務局長(左)

 FIPAは、ドゥロ総代表が選考を、ジャン=ミッシェル・オセーユ事務局長が財務・運営を担当している。
 2人は監督週間以来のコンビで、FIPAをヨーロッパ一のテレビ映像フェスティヴァルへと育て上げた。
 オセーユの主たる仕事は、開催資金集めである。いずれのフェスティヴァルも、常にお金の問題で頭を悩ますが、FIPAも例外ではない。
 全体予算は約2億円。そのうち、3分の1がCNC(フランス国立映画センター)から、4分の1が著作権団体から、残りの3分の1強が市、県、地方の行政、そして、協賛団体からの拠出により賄われている。CNC、著作権団体からの拠出は制度的に保証され、映画大国フランスらしい。これらの助成は、毎年保証されるわけでなく、減額の可能性が殊にCNC助成にはある。著作権団体からは常に全廃の恐怖があり、オセーユにとり最大の心配の種である。

私的録音(画)制度の恩恵

 フランスは著作権者保護が法的に完備しており、それぞれの文化団体が会員のために著作権料の徴収と分配を担当している。FIPAを助成するのはSACD(映画・演劇)、SACEM(音楽)、ADAMI(俳優)、PROCIREP(プロデューサー)であり、FIPAには総額約4800万円、そのうち、映画関連のSACDは1280万円を助成している。
 これらの団体、カンヌ映画祭を始め、フランス国内での多くの映画祭へも助成している。
 これらの助成の財源は、私的録音(画)機器への消費者価格に対し、一定料率を課すタックスで、1985年に法制化されている。
 この私的録音(画)の徴収のうち、25%が文化活動への助成と義務付けられ、その一環として、各団体がFIPAなどへの助成を行う。
 各団体は独自に助成先を決定する。趣旨として、なるべく多くの団体を助成対象とするポリシーがある。そこで、時にこの助成が受けられない団体が出てくる。FIPAも、正に、このケースで、オセーユが、毎回、泣いて、助成を続けて貰っているとはSACD担当者の証言。資金集めの大変さが良く伝わるハナシだ。

若者対象の企画
 
 FIPAは、若者を対象とする企画にも力を入れている。
 世界の映画学校の招待、作品上映で、毎年4、5校の映画学校がビアリッツに招かれる。
3年前には、日大芸術学部映画学科が招かれた。今年は、国立映画・テレビ・演劇学校・ロッズ(ポーランド)、エヴリー大学(仏)中国テレビ情報大学、サン・パウロ大学(ブラジル)、国立メキシコ大学映画センターの各校が参加。作品上映、学校紹介、そして、討論が行われた。
ホテル代はFIPA負担、旅費は学校負担であり、若き映画学徒にとり絶好の交流の場である。
又、FIPAに参加する、地元フランス南西部の映像関連の高校生、大学生を招き、会期中、多くの若者の姿が見られた。ビアリッツ市内、郊外の中学、高校、専門学校の生徒たちは、映画の校外実習として、先生に引率され作品鑑賞を行った。
若者対象の企画以外に、ドイツ人女優マルチナ・ゲデク(*)のユーロフィパ顕彰が行われた。
受賞ディナーでは、日本から参加のNHK、北海道文化放送の人たちとも気さくに会話を交わした。
(文中敬称略)
(*) (「マーサの幸せレシピ」〈01〉、「善き人のためのソナタ」〈06〉出演)


映像新聞 2008年2月25日掲載
《続く》
           

中川洋吉・映画評論家