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エントリー総数は36カ国から1802本


「FIPA2006」(フィパ−国際テレビ映像フェスティヴァル−フランス、ビアリッツ市開催)は1987年創立以来、2007年で20回を数える。また、フランス、カンヌ市からビアリッツ市へと、地中海から大西洋岸に本拠地を移してから10年目となる。ピエール=アンリ・ドゥロが、カンヌ映画祭監督週間(69年創立)総代表時代、監督週間と併行して立ち上げ、創立当時、カンヌ市のフェスティヴァル・パレスで2月に開催してきたFIPAは、すっかりビアリッツ市に溶け込み、いまや同市の欠かせないイベントとなった。夏の保養地として知られるビアリッツは、多くのホテルが冬季休業するが、FIPAのお陰で通年営業となり、市の観光振興にとり、起死回生策となった。

◆ビアリッツの魅力

スペイン国境近くのビアリッツは、大西洋に面し、昔から英国人が船で保養にやって来た歴史がある。その歴史の名残りが、市の郊外に多く見られる、英国風の木組みに白壁のヴィレッジ風の別荘であり、冬季は、その多くがブラインドを下ろしている。夏の繁忙期は、3万3000人の人口が4倍に膨れ上がり、FIPAのメイン会場であるカジノの前のビーチは海水浴客で溢れる。

ホテルも、ナポレオン王妃ウジェーヌがひいきにした豪華ホテル、オテル・デュ・パレが威容を誇り、ビアリッツの代表的風景となっている。このホテルはここ数年、コート・ダジュールのカンヌやニースに押しかける日本人観光客の誘致に力を入れ始めた。売りは、冬でも温暖な気候で、ゴルフが年間楽しめること。また、海水美容法(タラソテラピー)のメッカを自認しており、スパを併設する準備も始めるほど。金持ちの日本人に来てもらいたいという熱意を感じさせる。また、同市には、アジア人が全く見られず、日本人にとって新鮮に映るだろう。

カンヌからビアリッツに本拠地を移したことについて、ドゥロ総代表は「何よりもカンヌより静かで、けばけばしくない。そして、ばかばかしく高いカンヌ物価と比べ、ビアリッツは相当に安い」と、大いに満足している。


◆今年の出品国

今回のエントリー総数は、1802本と、昨年より減少している。原因として、今年からエントリーを電子メール方式に切り換え、それが多くの出品者に戸惑いを与えたのではないかと事務局は見ており、深刻に受け止める風はない。この方式により、“ダメ元”出品の減少も理由の一つと思われる。国数は36カ国を数える。出品本数を国別に見ると次のようになる。

ピエール=アンリ・ドゥロ総代表

(カッコ内は本選選考本数)
・カナダ =153本(8本)
・ドイツ =126本(11本)
・オランダ=116本(4本)
・イタリア=83本(2本)
・スイス =82本(7本)
・ベルギー=81本(3本)
・中国  =75本(1本)
・日本  =39本(3本)

これ以外に、地元フランスは出品数が511本と、圧倒的に多く、本選選考数は21本である。
地元優先とも言えなくはないが、フランスは欧州で最もドキュメンタリー制作が盛んで、それらを発表する場がある。

発表の場の代表は、独仏国営共同教養テレビ局アルテであり、この存在は大きい。ほかに、フランス国営のF3局もドキュメンタリーに熱心に取り組んでおり、この2局がフランスのドキュメンタリー(正確には、テレビ・ドラマも含むテレビ映像)の中核となっている。この2局の周辺に、個人制作プロが活動し、出来上がった作品のテレビ放映は確実に保証されるシステムが確立している。このテレビ映像作品は、CNC(フランス国立映画センター)の助成の対象になっている。


テレビ・ドキュメンタリーの隆盛

フランスは元来、テレビにおける映画放映が盛んで、国営、民間テレビ局は2005年に1465本放映している。それは、プライムタイムの目玉となっているが、最近その傾向に変化を見せ始めている。プライムタイムにドキュメンタリーが登場し始めた。これは、今までになかった現象だ。
ここ数年、フランスではジャック・ペランがプロデュースする『ミクロの世界』(96年)や『WATARIDORI』(03年)がドキュメンタリーとして、フィクション以上の興行成績を挙げ、最近では『皇帝ペンギン』(05年)が一般上映館で大ヒットした。

このような状況は、テレビ界にも影響を及ぼしており、ドキュメンタリーがフィクション並みの興行性を持ち始めており、一般上映館で年間約50本が公開される。

ただし、FIPAにはフィクション(テレビ・ドラマ、劇映画)、シリーズもののドラマ部門があり、ドキュメンタリーに限った映像フェスティヴァルではない。

◆本選選考作品について

各国の出品数と本選選考数を例示したが、出品数が多い国々が、本選選考作品も多いとは限らないところが、FIPAのFIPAたるゆえんである。
フランス語圏を持つカナダや隣国のドイツは、出品数に比例し本選選考作品が多い。しかし、オランダ、スペイン、イタリア、ベルギーは少ない。この辺りが選考ディレクター、ドゥロの目の厳しいところである。

彼の選考基準は、自分が気に入るか気に入らないかであり、このポリシーは、69年のカンヌ映画祭監督週間総代表就任以来、貫かれている。

このことは、彼の見識をもって、初めて許されることであり、これを他人が真似したら収拾がつかないことは言うまでもない。この独断ぶりにより、FIPAを選び手の顔が見えるフェスティヴァルにしている。合議制ならば、ここまで個人の顔は見えてこない。

実際に、FIPAで作品を見ていると、エントリーで落ちた作品の中にも秀作はいくらでもある。筆者は日本からエントリーした人たちに、「作品が劣るのではなく、ドゥロの好みに合わなかっただけ」と常々説明している。


◆選考本数

本選6部門(フィクション、シリーズもの、ドキュメンタリー、ルポルタージュ、音楽・ダンス、短篇部門)では、103本が選ばれた。

数的には、出品数が圧倒的に多いフランスが25本、次いでドイツが11本、フランス語圏をもつカナダが8本、スイスが7本、オーストリアが4本、そして、日本は3本と健闘している。
全体的に見れば、各国とも出品数に関わらず、選考数が非常に少ない傾向が見られる。商業主義、縁故情実を排する選び手の姿勢は見事としか言うほかない。逆に言えば、本選に選考されなかった作品のディレクターや、テレビ局の制作サイドの怒りや落胆も大きいということだ。
同じことは、長篇作品約1000本から、20本前後の作品を本選部門に選ぶカンヌ映画祭にも起きている。


◆フィパテル

FIPAの見本市にあたるFIPATEL(フィパテル)は、本部のあるカジノ近くの海岸沿いの丘に面するベルヴュ(美しい眺めの意)の大広間で開催される。今年も昨年同様、約90台のモニターを使い、サーバー方式で、同じ作品が同時に見られる設備が威力を発揮した。モニター機器は、最近フランスへ大攻勢をかけている韓国の大宇社製であった。

会期中、場内は常に満席状態で、聴視ヒット数は05年の3900を上回る、5000の見込み。入場は有料で、買付けの各国テレビ関係者に限定されており、ほとんど欧州の有力テレビ局が参加している。

以前とは比べものにならないくらいの繁盛ぶりで、FIPATELは完全に定着し、新たなテレビマーケットとして認知されている。日本からのテレビ関係者の姿は見えないが、このFIPATELにそろそろ注目しても良い時期であろう。

世界のテレビ界は、テレビ映像フェスティヴァルで、作品ソフトを大量に買い込み(その中にソープドラマ的なプログラムが多く含まれる)、作品の単品買いは行わない傾向がある。FIPATELはこの傾向の逆で、硬く難しい作品の単品売りを目指しており、この点が日本からの参加者の足を遠ざけている原因でもある。

現在、フランスのテレビでは、プライムタイムの映画放映は前述のように編成の目玉であるが、最近は、ドキュメンタリーが登場し始めている。この風潮は、少しずつではあるが、劇映画の代わりにドキュメンタリーがかかる映画館がパリに出てきていることと無関係ではない。テレビと映画の垣根が低い現在の風潮がここにも見られる。

フランスのドキュメンタリー復権の流れは、欧州各国にも波及するであろう。必然的に、FIPATELの重要性が以前に増して注目されており、来年からは、入場資格を厳しくしなければ、収容人員が溢れるところまで来ている。

(敬称略)

中川洋吉・映画評論家